PHPerKaigi 2018での発表でベストトーク賞をいただきました

3月9日・10日と開催されたPHPerKaigi 2018に参加し、「SOLIDの原則ってどんなふうに使うの?」と題した発表をしてきました。今回の発表で私が目標としていたことや、その他PHPerKaigiで何人かの方と個別にお話した内容などをメモしておきます。

phperkaigi.jp

 

スライドの公開など

所属先の技術ブログで公開しています。

tech.quartetcom.co.jp

(トークスクリプト付きのKeynoteファイルも配布しておりますので、見てみたい方はリンク先からどうぞ)

発表の目標

今回は、次のような目標で内容を作りました。

  • 発表の30分の中で、聞いた方が「理解した」と感じることができる内容・構成
  • 設計原則などにあまり触れたことがない方にも、理解してもらい、設計って面白い、役に立つかもと感じてもらう
  • 理解した内容を、使えそうという感触を持ってもらう

この目標を達成するために、伝えることを明確にした上で1つに絞りました(それが「オープン・クローズドの原則」)。

私は凡庸なトーク力しか持ち合わせていないため、1つに絞った内容を「どのようにしたら、上手く伝えることができるのか」という点でも、苦心しました。発表した形式になるまでに、構成の仕方が異なるバージョン(その中には、幻の手書きスライドバージョンなどもあったりします)を4つほど作成しました。

目標に掲げた3つの制約を、30分の時間で満たすようにするというのは、なかなか手ごわい条件でしたが、ある意味この30分という条件のおかげで、内容をコンパクトにまとめることができたように思います。

 

賛否両論の「先輩と新人の掛け合い方式」は、斬新で面白かったかもしれませんが、このような講演で採用するのは今回が最初で最後にしようと思いました。

発表について

若干のトラブルがあったので、自分のためにメモ

  • スライドの最初の方の部分で、なぜか表示されない?アニメーションがあって焦った。記録モードにしていたのをやめて、普通の再生モードに切り替えた。微妙にパニック状態だったので、本当に「アニメーションが表示されなかったのか」どうか記憶があいまい・・・。
  • 途中で水を飲んだが、その時にペットボトルの蓋を閉め忘れた。そのため、質疑応答の際に手が当たって水がMBPの上にこぼれてしまい、また若干パニックに。蓋は閉じよう!

 

発表外で、お話したこと

以前、所属先の技術ブログで、指導中の新人が次のブログを書きました。

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このブログ記事で、最後の「リフレクションを使った例」について、なぜそういったものが必要になるのかよく分からないという質問をいただきました。なので、そもそも記事の元ネタになっている問題をお見せして、その場でその方なりの解き方などをある程度話し合った後に、実際の私のコード全体をお見せし、何をどのように表現しているから「リフレクションを使う仕組みが必要」になるのかお話したりしました。

このようなプログラミング問題でコード設計力を磨くというのを、私は地道にやっています。よく題材として使わせて頂いているのは、横浜へなちょこプログラミング勉強会さんのものです。

横浜へなちょこプログラミング勉強会 | Doorkeeper

 

また、別の方とのお話で、設計について学びたいけど、自分が読むのに良い本を見つけられていないという件がありました。これについては、私が人に本を薦めることに慎重なこともあって、「これを読めばOK」と即答できるような書籍がたしかに思い当たりません。これには、以下の理由があります。

  • 設計というのは、勉強してできるようになるような「科目」とは違って、いろいろな要素の総合力が必要な活動
  • いわゆる「設計」とカテゴリされるような方面の知識だけでは良い設計はできず、実装力も同時に伸ばす必要がある

関連しそうな、過去に書いた記事

blog.hidenorigoto.com

blog.hidenorigoto.com

tech.quartetcom.co.jp

イベントについて

随所に「コミュニケーションできる場」ということを意識されていたのが良かったですし、そのことが多くの参加者にも好評だったように私は感じました。Ask The Speakerのコーナーやラウンドテーブル、アンカンファレンス等もそうですが、規模としてそんなに大きすぎない、一体感を感じられる人数だったのも良かったのかなと思いました。

私はこのようなカンファレンスにスピーカーの側で何度も参加していますが、私がカンファレンスに求めていることは、まさにコミュニケーションなんです。それも、自分の話した内容についてもっと話したいということとは全く違って、自分ではない他の人が、現場でどのような問題に取り組んでいて、どう苦労しているのか、工夫しているのかといった話を聞いたり、それについて意見を言ったり、共感したりといったことをしたいんです。他のカンファレンスでそれが全く出来ないってことはないですが、今回のPHPerKaigiは、そういったコミュニケーションをしやすい空間になっていたなーと思いました。

最後に

PHPerKaigのスタッフの皆様、素晴らしいイベントをありがとうございました!

ベストトーク賞で国内カンファレンス参加費補助!という、今の私に最高のご褒美をいただけたので、次は関西、福岡、東京のどれかのカンファレンスに、是非またスピーカーとして参加できるよう、渾身のプロポーザルを作ります!

 

PHPerKaigi 2018にトークが採択された(&ボツネタ)

2018年3月9日(金)・10日(土)で、PHPerKaigiというイベントがある。

phperkaigi.jp

参加チケット販売はこちら 

passmarket.yahoo.co.jp

 

PHPerKaigiは、今年初めて開催されるイベントで、参加者同士・発表者と参加者との交流、距離の近さなどを意識されているようで、とても魅力に感じた。そして、これは発表しなくては!と思いトークを申し込んだ。なんとしても発表者として参加したかったので、30分枠3つ、LT枠1つの計4つも応募したほどだ。

 

採択いただいたトーク

タイトル

SOLIDの原則って、どんなふうに使うの?

概要

オブジェクト指向プログラミングを勉強したことのある人なら、一度は聞いたことのあるSOLIDの原則。
特にオープン・クローズドの原則って、意味が分からない! という感想を持った方は少なからずいらっしゃるかと思います。
この講演では、PHPのコード例を示しながら、どのような状況でSOLIDの原則を持ち出すのか、および、原則を適用するとコードがどのように変化するのかを、分かりやすくお話します。

日程

3/10 11:10〜(30分)

 

この内容は、応募した中では、今回私が一番話したいと考えているものだったので、選んで頂けてありがたい。初心者の方から上級者の方まで学びがあり、役に立つと思って頂ける内容を目標としている。乞うご期待。

 

採択いただけなかったトーク

他に申し込んだトークを公開しておく。採択頂いたトークに引けを取らない、面白い話ができる自信のある内容なので、何か別の機会に使いたい。

 

[30分枠]「実録、中途採用したPHPerを鍛え直した3ヶ月」

中途採用したPHPエンジニアに対して、3ヶ月間実施した教育の方針や内容を、実際に新人が書いたコードややり取りの紹介も交えながらお話します。
これから力をつけていこうとしている方には、学び方のヒントに、教育する側の方には、自走できる(自分で学びのサイクルを回していける)エンジニアに育てるための教え方のヒントになるかと思います。

 

[30分枠]「ドメイン駆動設計から始まった私の学びの旅 ー あの頃の私は何も知らなかった」

私が本格的に設計などについて学びを深め始めたのは、ドメイン駆動設計からです。
それ以前は、多くの本を読んだりしていましたが、知識をバラバラの点としてしか飲み込めておらず、結局は何も自分のものにできていない、無知な状態でした。
そこから様々なことを学び、今では点どうしがつながった世界を見渡せるようになりました。
私が学んできたことを紹介し、ドメイン駆動設計のような技術に対して広い視野から見下ろせるようになるお話をします。

 

[LT枠]「「それはどういうこと?」と問いまくる読書会をやったら学びが深まった話」

新人教育の一環で「アジャイルソフトウェア開発の奥義(第2版)」を週に2回、1時間弱の時間で読書会をしていった。
この際、書いてあることをサラッと理解するだけに留めず、「どういうことを言わんとしているのか」を自分たちで説明可能になるまで考え合うようにした。すると学びがかなり深まった。実際に考えた部分をいくつか紹介し、本を深く読み込む面白さをお伝えします。

 

トークのボツ案

まだ自分の中で考えが煮詰めきれていないが、いつかは人前で発表できるように仕上げたいと思っているネタ。

  • Coding We Live By プログラマーの論理
  • ソフトウェア開発における「モデル」とは何か。「モデリング」「設計」とはどのような行為か。
  • 設計力の磨き方

 

さいごに

PHPerKaigi、是非ご参加を!

phperkaigi.jp

2017年振り返り

2017年の振り返り。

このブログを始めた

このブログを作ったのはちょうど2017年の1月で、最初の記事は2月11日に公開した。ブログを作るに至ったモチベーションは、興味を持っている事柄について、より深く探求し続けていきたいから。しかしその探求というのは、どうやら誰かが用意してくれている道ではないため、自分の力で切り開いて進んで行かなければいけないような気がする(だからこそ興味もあるのだが)。そうだとすると、まず興味を持っている事柄について、現時点ではたとえ稚拙だとしても、自分の理解を自分の言葉で表現し、先人たちの用意してくれている概念や理論などと照らし合わせながら、足場を固めなければいけない。そう考えたのだ。

ブログ開設当初に、1つの目標としていたEvansのドメイン駆動設計についての見方の整理は、ある程度満足のいくアウトプットになった。

しかし、おそらく多くの人も同じだと思うのだけど、アウトプットした記事数の何倍も、下書きのままの記事や、書きかけて消した記事がある。思うように筋や落とし所が見いだせず、アウトプットまで到達できないということに苦しみ続けた。

今年書ききれなかったテーマのうち、以下の2つは公開されているどの記事よりも時間をかけて取り組んだにもかかわらず記事に仕上げることができなかった。来年に持ち越して、再チャレンジしたい。

その他、数は少なかったがインスピレーションをもらった本の感想を、読後感が消えないうちに書くということもできた。

来年も同数以上のアウトプットはキープしたいところ。

 

プログラマー仲間とのツアー×2

ただでさえ普段岐阜の山奥に引きこもっているのに、年々勉強会やミートアップへの参加が減ってしまっていて、プログラマー仲間とのコミュニケーションの機会がめっきり減ってしまった。そんな危機感もあったため、私の中ではかなり長い付き合いになってきているSymfonyユーザー会がらみの仲間とガッツリ遊べそうなタイミングは逃さなかった。

1度目は、7月に開催されたPHPカンファレンス関西に合わせて、郡山さん、polidog、gilbiteが東京から車移動というのに便乗した。そして、せっかく関西に来たのだからと、翌日はpolidog、gilbiteと私の3人で奈良の法隆寺・東大寺観光(夜はgilbiteと二人でスーパー銭湯)、さらにその翌日は郡山さん、gilbiteと私の3人で祇園祭、宇治観光してから帰るというツアー。奈良では、学校の教科書でしか観たことがなかった仏像を直に観て、その佇まいにひたすら圧倒された。

2度目は、11月に開催されたDCI Tokyo Reviewのイベントの前日に、郡山さん、polidog、gilbite、勢田さん、花井さん、おかぽん、私の7人で、草津温泉ツアー。この時は郡山さんの車1台に全員乗って、比較的長時間の車移動だったため、それぞれの仕事のことを話したりしていた。そういう時間も楽しかったし、何より、紅葉のシーズンの最後くらいで、雪もちらつくほどの寒さを感じながら、午後の済んだ空気のせいか近く見える山の、その上を速く流れる雲を見上げながら、熱さの刺激も心地よく感じる草津温泉が最高だった。

来年も、この仲間たちとのツアーは是非行きたい。

 

仕事で新人教育をやった

私はこれまで、プログラミング関係にかかわらず、何らかの教育という活動を多く行ってきた。しかし、本を書いたり短期間のトレーニングコースだったり、座学の研修スタイルなどばかりだった。今回は初めて、自分と同じチームで仕事をする、自分の直属の部下になる人を、自分のカリキュラムで、1から育てるということをした(現在進行中)。

教えることにおいて、「What=何を」の部分(つまりカリキュラム)は、これまでの教育経験や今やっている仕事の経験から、良い内容を最初から用意することができた。しかし、それを「How=どうやって」教えるのかという部分が、私にとってチャレンジの部分だった。2つのことを意識した。

教育は、相手があってのものなので、私のやり方が絶対的に正しかったということはできないが、新人の素直さや勤勉さにも助けられたおかげで、3ヶ月たった現時点で、一緒に仕事をしていける信頼関係のスタート地点には、十分に到達できたと感じる。

来年は、この新人の実務指導と並行して、数値的な予定では別の新人も入ってくることになるはず。業務的な課題はいろいろあるが、私個人としては、その時その時の新たなチャレンジとして楽しんで取り組みたいと思う。

 

買い物

  • iPad Pro(10.5インチ)を買った。アイデアや考え事のダンプ先にずっと迷っていたが、完全にライフチェンジした。
  • 車のタイヤ(+ホイール)を、わずかだけどスポーティなデザインのものにした。車に乗る頻度が高いので、その度に自分の気分がちょっとだけ良い。
  • 数年悩んでいたが、ようやく年末になって椅子を買った(買う決定をした)。届くのは来年だが、ライフチェンジになるはず。
  • iPhoneを6→8に機種変更したことに合わせ、積極的にiPhoneを使ったQUICPay支払いを使うようにしてみた。財布がかなりかさばっているので、それを出し入れする手間が省けるのはかなり良い。

 

総括

目立つアウトプットなどができなかった反省はあるが、全体としては2017年はよい一年だった。

 

 

職場の仕事仲間の皆様、プログラマー仲間の皆様、twitterなどで絡んでいただける皆様、いろいろとありがとうございました。

2018年もよろしくお願いいたします!

 

『青の数学』が面白かった

王城夕紀の『青の数学』『青の数学2』が面白かった。読後の感触が消えないうちに、さらっと感想メモを書いておく。

 

青の数学 (新潮文庫nex)

青の数学 (新潮文庫nex)

 
青の数学2: ユークリッド・エクスプローラー (新潮文庫nex)

青の数学2: ユークリッド・エクスプローラー (新潮文庫nex)

 

 

「才能って何だろう?」

青の数学は、数学オリンピックを目指すような数学的才能を持った少年少女たちが、数学を通して自分や仲間と、そして数学自体と向き合っていく姿が描かれた小説だ。「数学とは何か」という問いが話の中心にあるが、その問いに向うものたちが、頻繁に向き合うのが、「才能とは何か」という問いだ。私はこの問いに、個人的に強い思い入れがあったので、さまざまな登場人物の語る才能に対する思いに、自分を投影したり、頷いたり、反感を覚えたり、感極まったりしつつ、ページを次々にめくって読むことを止められずに、2巻まで一気に読んでしまった。

 

私の記憶の中で、「才能」という言葉は「挫折」と強く結びついている。特に強く覚えている挫折が、2つある。

 

1つ目は、私が高校生の頃の話だ。高校では陸上部に入っていた。中学の頃から短距離走においては市の大会では常に上位でちょくちょく優勝するくらいの実力があった。当然ながら、自分には短距離走の才能があるのだと思って疑わなかった。高校の陸上部では2年になって3年が引退すると、私が部のキャプテンになった。その年に入部してきた1年は、中学の時の後輩や同じ大会で走った別の中学の後輩らだった。その後輩の1人Kは、高校に入ってからメキメキと力を伸ばし、遂にはその年に100m走で全国大会へ出場するまでになった。一方の私は地区の大会止まりのまま、まったく成長していなかった。部活では、しばらくその後輩と組んで練習メニューを行ったこともあった。しかし私の成績はほとんど伸びなかった。ある地区大会で、いつものように冴えない成績だった走りの後で、顧問の先生に質問した。

「Kは、なぜあんなに速いのですか?」

「バネが違うんだ、アイツは」

バネが違う。この一言で、私はすべてを納得してしまった。私にはバネがない。才能がないということを。努力して練習しても、自分には絶対に到達できない世界がある。自分が行ってみたいと幼稚にも思っていた世界に、行く資格が無いのだと知る。頭と体の両方で、完全に納得した。それで私は陸上部を辞め、ガリ勉になった。

 

2つ目は、私が大学生の頃の話だが、大学に入る前の高校時代まで少し戻る。高校の陸上部をやめてガリ勉になった私は、進学校だったこともあり、格好をつけて偏差値の高い大学を志望校に設定していた。なぜだか分からないが数学の点数は比較的良く、その高校の学年内では常にトップクラスだった。だから、、、当然の流れで、自分には数学の才能があるのだと、思ってしまいますよね? そして、数学ができることは格好良い、大学へ進んでもっと数学をやるのだと考えるようになってしまっていた。

そんな甘っちょろい考えだったにも関わらず、奇跡的に志望校に合格した。そして、同じクラスになったヤツらに、徐々に圧倒されることになる。全国模試で上位常連だったやつがゴロゴロいるのは全く驚くことですらなかった。クラスメートの多くは、大学でやる学問のことを、すでにある程度知っているようで、私は最初から取り残された感覚だった。そんな私だったが、わりと親しくできる友人Hができた。Hは有名進学校の出身なのだが、センター試験の点数を聞くと、私より低かったようだ。しかし彼は合格した。青の数学に出てくるような、数学の才能をもった人だった。聞けば高校時代に数学オリンピックに挑戦したり、その数学オリンピック関係の合宿に参加したというではないか。青の数学に登場するような人物が、過去に自分の身近にいたという経験が私にはあったのだ。Hの数学の実力は飛び抜けていたが、例に漏れず、そういう青春しか過ごしてこなかったのだろう。なぜか私はHの恋愛相談相手という立ち位置で、彼と親しくなったのだった。

大学1年の授業で、Hはたびたび講師の教授を困らせていた。電磁気学の授業では、授業第1回目にHがおもむろに「電磁気学の法則を学ぶには、まず微分形式を導入する必要がある。それなくして電磁気学は成り立たない」(うろ覚え)というような発言をした。その回の講義は当初のまま進んだため、Hの話は無視されたのだろうと思っていたが、次の電磁気学の授業で、教授が黒板に最初に書いたのは「Manifold(多様体)」だった。それから2ヶ月ほどは、電磁気学ではなく多様体の基礎から微分形式までを駆け足でたどる数学の講義だった。Hは満足そうな顔をしていたのを覚えている。

H以外にもすさまじいヤツらばかりだった。「物理の問題なんていうのは、全部システマティックに解けるんだ」と言い切るヤツなど。私は、育ってきた世界、みえている世界が違いすぎると思った。

それでも、いろいろ本を読んだりすれば挽回できるんじゃないか?なんて思って、専門書を買いあさり、いろいろと読んでみるものの、まったく実にならない。身につかない。今から思えば、その時の私は、「どうやって学ぶのか」「どうやって自分で考えるのか」ということを、ほとんど知らなかった。本を読んだだけで挽回できるというようなことでは、全くなかったのだ。あらゆることが足りていなかった。きっと才能も。

それで私は、大学を辞め、コンピューター関係の道を目指すようになった。

 

私は今42歳。コンピューター関係の職業は、今でも続けられている(大小さまざまな挫折はあったが)。

私には、何か才能があるのだろうか?

この問いについて、正直に今思うことを書くと、「それはどうでも良い」だ。今自分にこの仕事ができているのが、才能のおかげなのかどうかは測るすべがないし分からない。ただ自分には、すべてのことはできないが、何らかのことはできる、というゆるぎない自信がある。それだけだ。それである程度の対象には、向い続けることができている。それで良いんじゃないかな。

 

与太話を書いてしまったが、とにかく、自分のいろいろな思いを刺激されもした『青の数学』。続きがあるなら是非読みたい。

 

拾い読みメモ「インストラクショナルデザインの理論とモデル」

学び方や教え方といったことにも興味がある私は、書店で教育系の棚を眺めに行くことがある。しかしこの分野の知識体系はほとんど持ち合わせていないため、ランダムに本を手にとってパラパラとめくったりしながら、その時の気分で何かが目に留まるのにまかせる。ある時ふと『インストラクショナルデザインの理論とモデル』という書名が目にとまり、購入した。

分野的に私には知識ベースが足りないのと、本が各論ではなく全体像を示すことが目的(と私は解釈した)なこともあり、詳細を議論できるほどに読み込めていないが、流し読みして気になった点をメモとして残しておく。

インストラクショナルデザインの理論とモデル: 共通知識基盤の構築に向けて

インストラクショナルデザインの理論とモデル: 共通知識基盤の構築に向けて

  • 作者: チャールス・M.ライゲルース,アリソン・A.カー=シェルマン,Charles M. Reigeluth,Alison A. Carr‐Chellman,鈴木克明,林雄介
  • 出版社/メーカー: 北大路書房
  • 発売日: 2016/02/12
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 

この本では、現在でもさまざまな研究が続けられている「教授理論(instructional theory)」をとりまく、最新の状況が体系的にまとめ上げられている。

 

私がとりわけ興味を抱いたのは、14章「教授理論のアーキテクチャ」あたりの内容だ。教授理論というのは複数の理論群の総称で、実体としては独自に発展した個別の理論、および理論とは呼ばないが経験的に実施されているものも含めていくつもある。 それらの特性を評価するための道具としていくつかの提案があるのだが、以下の2つが気になった。

  • 設計理論とドメイン理論との区別
  • 教授理論の設計レイヤー

設計理論とドメイン理論との区別

上に書いたように、教授理論としてはさまざまなものがある。それら個別の理論は、技術や能力をよりよく教えるという大きなゴールを共有している。そうであるなら、個別の理論の何らかの側面に着目することで、1つの世界観のもとで語ることができるのではないだろうか。

この本では、個別の教授理論と、教授理論の設計問題を議論するためのフレームワークとしてのID(Instructional Design)理論とが区別されており、後者を設計理論と呼んでいる。これに対して前者の個別の教授理論は、ドメイン理論と分類している。

理論群に対してこのような区別を提示することは、とても重要だと思う。これによって、個別のドメイン理論の設計的な特性を論じることができるようになるし、次に述べるレイヤーのようにより整理された視点・概念を個別のドメイン理論の設計に持ち込んで進化させていくことにも役立つはずだからだ。

なお、設計理論の必要性について、この本ではハーバート サイモンの人工物の設計科学の議論を引いて、次のように説明されている。

サイモンは、特定の適用にかかわらない、独立した一般的な「人工物の設計科学(design science of the artificial)」の設立についての議論を投げかけた。彼は設計理論家に対し、「設計の科学、つまり知的に堅強で、分析的であり、部分的に定型化可能で、さらに部分的に経験主義的な、教授可能な設計プロセスに関する理論の体系を発見すること」を要求している。

人工物の設計、とても深遠なテーマだと思う。

教授理論の設計レイヤー

私はソフトウェアエンジニアなので、レイヤーという言葉にはとても馴染みがある。それが教授理論の設計という分野でも使われていることに素直に驚いた。しかし、レイヤー概念はソフトウェアの問題に固有であるはずはなく、設計活動のあるところなら必然的に適用しうるだろう。この本ではギボンズの記述として以下の6つの教授理論のための設計レイヤーが紹介されている。

  • コンテンツレイヤー(content layer)
  • 方略レイヤー(strategy layer)
  • メッセージレイヤー(message layer)
  • 管理レイヤー(control layer)
  • 表現レイヤー(representation layer)
  • メディア論理レイヤー(media-logic layer)
  • データ管理レイヤー(data management layer)

このレイヤーを用いることで、個別の教授ドメイン理論が持つ特徴をレイヤーごとに調べ、比較することができる。さらに、教授を設計する場合にも、レイヤーごとに問題を分割して検討することが可能になると思われる。

ドメイン理論の設計レイヤーの話の起点として、スチュアート ブランド の建築設計のレイヤーの話が紹介されている。これは、次の6つのレイヤーでまとめられたものだ。

  • 敷地
  • 構造
  • 外装
  • サービス
  • 空間計画
  • 什器等

これを見ると、設計レイヤーとは単に表層的な内部・外部関係から導かれたものではなく、興味関心や役割の違いが反映されたものと見ることができる。つまり、個々のレイヤーがそれぞれ建築設計のサブドメインなのだ。

同じ章でさらに、ブランドの建築設計におけるレイヤー意識の影響として次の6つの要点が紹介されている。

  • 各レイヤーは、異なる進度で成熟し、変化する。しかし、それらは相対的に独立し、他の個別レイヤーに非破壊的な変化を許容する範囲で設計され、接続されうる。
  • レイヤーによる設計は、それゆえに適応性があり、永続する人工物を創出することができる。
  • 「敷地」から「什器等」へのレイヤーの系列は、設計と建築の両方にあてはまる一般的順序である。さらに、それは異なるレイヤーそれぞれの経年速度と関連がある。
  • それぞれのレイヤーには、それぞれに異なるアジェンダや設計ゴール、そして解決し統合すべき問題があり、異なる設計スキルセットが要求されることを示す。
  • 建築の力学―レイヤー間ならびにレイヤー内の変化の速度は、緩やかに変化する構成要素に支配される。速やかに変化する構成要素は、それらに「随伴」する。
  • いくつかのレイヤーを一緒に埋め込むことは一見効率的に見えるが、究極的には、変化がだんだんと破壊的になるにつれて、建築物の寿命を短くする。

この6つの要点のうちの5つめ、緩やかに変化する要素に支配されるという建築の力学が特に気になった。これは、ソフトウェアの設計でいえば、パッケージの安定依存の原則(SDP: Stable Dependencies Principle)安定する方向に依存せよと同じだ。建築では現実世界との相互作用が強いので、より顕著にこのような傾向があるのだろう。

 

機会があれば以下の本を読んでみたい。

システムの科学

システムの科学

  • 作者: ハーバート・A.サイモン,稲葉元吉,吉原英樹
  • 出版社/メーカー: パーソナルメディア
  • 発売日: 1999/06/12
  • メディア: 単行本
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How Buildings Learn: What Happens After They're Built

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